愛着障害を癒せばパーソナリティ障害も改善する

自閉症スペクトラムの患者に、オキシトシン点鼻薬を投与すると、コミュニケーション能力が改善したとする研究が米医師会雑誌に発表されました。東大医学部の研究報告です。つまり、発達障害のコミュニケーション能力の改善の鍵を握るのは、オキシトシンだということです。オキシトシンは、本来、脳下垂体後葉から分泌されるホルモンです。そして、このホルモンは親子の信頼関係構築を促したり、対人関係における相手への信頼感を生み出すことがこれまでの研究で判明してきています。つまり、愛着障害との関連が深い、パーソナリティ障害の場合も、オキシトシンの分泌を増やせば、改善するということになります。

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パーソナリティ障害と親の愛情欠乏の関係

オキシトシンは、母乳育児や母親による抱擁、ハグなどの行為が分泌を促進することがわかっています。それだけではなく、愛情つまり、やさしさを感じさせるようなコミュニケーションが、オキシトシンの分泌を促進させることもしだいに明らかになってきたのです。発達障害の子供のコミュニケーション能力を向上させることは、オキシトシン分泌が促進されるような親和的で共感的なコミュニケーショントレーニングを行えばよいということなのです。パーソナリティ障害の改善についてもこのことは、あてはまるのです。パーソナリティ障害は、愛着障害に深い関連があります。親による共感的、受容的なかかわりが欠如すると愛着障害になり、さらには、パーソナリティ障害になると考えられています。境界性パーソナリティ障害や自己愛性パーソナリティ障害、演技性パーソナリティ障害などは親からの育てられ方と深い関連があります。

発達障害はさまざまな原因で起こる

一方、発達障害の発生の原因は、遺伝的なものであったり、妊娠中の農薬や有害物質などであったり、先天的な発達のアンバランスであるというのが今の医学における見解になっています。その意味において、親に愛情が足りなかったから発達障害になるということはありません。ADHDもアスペルガー症候群も学習障害も、すべての発達障害はむしろ先天的なものです。その先天的な背景として、化学物質や有機リン系農薬やネオニコチノイド系農薬や、遺伝的なものなどのさまざまな要因が考えられているということです。ただし、生まれてきた子供にその発達障害がどれだけ強く問題化してくるのか、あるいは、その問題化した部分がどのように改善されて目立たなくなるのか、という療育と改善の働きかけの部分において、両親の取り組み方は、結果を左右します。たとえば、発達障害ゆえの不器用さや、ミスの多さを親がいつも非難し、その子を責めて、非共感的な態度で、厳しい言動を繰り返していけば、子供の心は傷つきます。子供の心の中に、自己重要感が育まれることが不十分となり、過剰な劣等感や、自己無価値感といった歪んだセルフイメージをその子が持つようになる場合もあります。こうなると、発達障害における問題行動やトラブルはますます大きな形で出てきてしまいます。子供には、未発達部分を少しずつでも発達させて成長していける可能性があるのですが、その可能性の芽を摘み取ってしまうのが、親の非共感的なかかわり方だといえるでしょう。

パーソナリティ障害も発達障害も愛着障害で悪化する

このことがわかれば、愛情をたっぷりと与えて発達障害の子の長所を伸ばしてあげることがもっとも重要な療育であり、親のかかわり方が、その子の未来を左右しているのは、まぎれもない事実なのです。そして、パーソナリティ障害を改善させる場合にも、まったく同じであり、共感的、受容的なかかわりが必要です。ただし、自己愛性パーソナリティ障害や反社会性パーソナリティ障害の人の場合、周囲への要求や干渉がひどいので、共感的に接することには限界もあります。うつ病の患者数が100万人を超えていますが、発達障害、パーソナリティ障害の二次症状としての検討が必要です。適応障害、パニック障害などの患者数も増加していますが、これらもその背景には、パーソナリティ障害および発達障害が隠れています。うつ病を早期発見することで自殺を防止できることは明らかです。ただ、発達障害、パーソナリティ障害は、精神障害ではありません。病名は診断する医師にとっては便利なものかもしれません。しかし、診断されたほうは、「私は人格障害なんだ」「発達障害なんだ」と病気に逃げ込み、本来は、思考パターンを改善したり、過去の出来事への解釈を改善したりすることで、簡単に克服できていたものをいたずらに長引かせることも多いのです。

家族療法とパーソナリティ障害

『「家族神話」があなたをしばる』の著者、斉藤学先生は、精神科医の立場から、はっきりとこのことを指摘されています。患者のかかえる物語(人生のストーリー)を再構築(NLPでいうリフレイミンブ)することで、患者は新しい勇気を得て、立ち直るということを主張されています。斉藤先生のクリニックでは、こうした観点からのカウンセリングを実施しているそうです。そして、「霊性」の向上が大切であると明言されています。スピリチュアリティ(霊性)は、WHOの用語としても使われています。こうした観点で患者を癒やす精神科医が増えることが必要ですね。発達障害は、単なる発達のアンバランスであり人間の個性に過ぎない物なのです。不得手な部分はゆっくり伸ばし、得意分野は積極的に伸ばし、生きやすい環境を整えていけば改善します。そのためには家族の理解と協調が不可欠です。これと同じで、パーソナリティ障害は、人格の発達のアンバランスであると考えることができます。家族療法で家族を癒し、パーソナリティ障害や発達障害の子を救うという道があることを知って下さい。

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