幼児期の環境が境界性パーソナリティ障害をつくる

境界性パーソナリティ障害の人は、最高から最低へ気分が揺れ動く傾向があります。対人関係の中で、相手のちょっとした言葉に反応して、その些細なひとことによって、最高に幸せな精神状態だったのが、突然、最悪の気分になり、死にたくなるほどの最低の精神状態にまで変動するのです。

対人関係において、この人は自分の味方で自分を支えてくれる人なのだと思い込むと、その人物を極度に理想化して、依存を強めていきます。このような期待感と理想化した評価をもとにして、頼られると相手もその重さに心理的な負担を感じるようになります。過度な期待のもとに、寄せられる要求の数々にしだいに心理的な負担を感じるようになり、気持ちが引いていき、期待に応えられないそぶりを見せるようになるのが自然です。ところが、境界性パーソナリティ障害の人は、そうなると見捨てられ不安のスイッチが入ります。見捨てられまいとして、必死に相手にしがみつこうとしてきます。

敵から味方へ逆転する

そのような姿勢は、相手の心理的な負担を増すばかりですから、相手はさらに離れていこうとすることになります。すると、境界性パーソナリティ障害の人は、今度は、自殺をほのめかしたり、実際にリストカットしたりすることで、相手の気を引き留めようと画策するのです。このような自殺企図で相手を引き留めようとしても、それはしょせん、一時的な効果しかありません。一時的な効果が減弱していくと、やっぱり、相手は離れていこうとします。これは当然の結果といえるものです。そうなると、今度は、相手に対して激しく失望して、やがて敵意を抱いて攻撃するようになります。味方から敵対者へと、評価が逆転するのです。このようなやり取りが続いていくうちに、相手も自分も精神的に消耗していくのです。なぜ、こうなるのかといえば、境界性パーソナリティ障害の人は、自己価値をとても低く認識しています。自分はつまらない存在だとの思い込みがあるということです。自分のことが嫌いで、自分を価値のない存在だと思い込んでいるのです。いったい、なぜ、このような強い自己否定の感覚を抱くようになるのでしょうか。

親とのかかわりの中で愛着に問題が生じる

その最大の原因は、親との関係性の中にあることがわかっています。必要な時期に親から十分な保護や愛情や承認を与えられなかったことが最大の原因です。親の愛情への渇望は、親への強いこだわりとして残ります。そのため境界性パーソナリティ障害の人は例外なく、親へのこだわりが強いのです。親への怒り、親への失望、親への問責、親への憎悪などを抱えていることが多いです。健全な育てられ方をすると人は、親から十分な保護や愛情や承認をもらいながら成長するので、しだいに、親への精神的な依存度が減少していき、最終的には親からの自立をすることができます。心の中に占める親の割合がどんどん小さくなっていくのが人の精神的成長の健全な姿です。ところが、もし、幼児期に親から適切な愛情の表現や保護や承認や勇気づけを受け取れなかった場合には、子供の心の中には常に親の愛情に欠乏した状態が残ります。親の愛を求め、親へのこだわりが強く残ります。夫婦仲の悪い両親の場合や、母親が子のことよりも別のことに関心が集中して子を後回しにしている場合などに、子の中に「見捨てられるという不安」や、「しがみついていないと、親はどこかに消え去ってしまう」という恐れが育つようになります。母親だけではなく、父親が不安定な場合にも、境界性パーソナリティ障害の要因になります。愛着の問題とパーソナリティ障害には深い関連性があるのです。

あわせて読みたい関連記事: