自己愛性パーソナリティ障害の母親と毒親

自己愛性パーソナリティ障害とは、自己中心性が極めて高いパーソナリティスタイルを持っています。このような傾向がある人は、幼児期に愛着障害になるような育てられ方をしていることがほとんどです。愛情欠乏を強い自己愛性の思考により癒そうとする無意識の思考癖の結果、自己愛性の要素が強化されていくのです。

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子供を突き放す自己愛性パーソナリティ障害の母親

ある母親が、自分の娘を勘当した事例をとりあげてみます。この女性は、自分の娘が妻子ある男性と交際し、子供ができたことがわかると、娘を責め、ついには家から追い出しました。母親として、そのような実らぬ男女関係から身を引き、もっとまっとうな恋愛をするべきだと子供に伝えたいという気持ちは十分に理解できるものです。しかし、恋愛の情を抱いている状態の娘に、別れなさいと強要したとしても、素直に従うわけもありません。話し合いの決裂とともに、母親は娘を見放すことを宣言したのです。ところが、娘がこのような状態になったのには、ちゃんと理由があったのです。

自己愛ゆえに婚外の恋愛活動に嵌る自己愛性パーソナリティ障害

この娘が幼少の時期から、この家庭では夫婦仲は良くありませんでした。夫婦の間には敬愛というものはなく、妻は夫を馬鹿にし、好き勝手に外で婚外のアバンチュールを楽しんだのです。敬愛のない父母のもとで、子供が健常な愛着を形成することはできません。娘は愛着障害を抱えるようになり、父性愛を示してくれるような年上の既婚者に惹かれてしまう結果となったのです。幼少期に与えられなかった親の愛情を別の相手から得ようとの救いを求める娘の心情をこの母親は理解することができなかったのです。「すべては娘の因果応報なのだ。自業自得なのだ。どうなっても知らないよ」と、冷たく突き放され、娘の親への愛着はますます傷ついたことでしょう。ほんとうは、その母親の自己愛に基づくこれまでの生き方の因果応報として、娘がそうなったということに、どうしても気が付かないのです。

自分は正しく他者は間違っているという自己愛性パーソナリティ障害の特徴

このように自己愛性パーソナリティ障害の人の特徴として、自分は正しい、相手は間違っている、という思考の偏りがあります。これは強迫性パーソナリティ障害の人にもしばしば見られますが、自己愛性パーソナリティ障害の場合にも、このような形で観察されるのです。この母親は自分は正しいと思い込んでいます。結果的に娘は、受け入れてくれる親族のもとへと身を寄せ、母親のもとを去りました。すでに両親は離婚しており、この家庭は崩壊したのです。しかし、この母親もまた、自分自身の親から、ひどい扱いを受けて育っていました。この母親は幼少時期に新興宗教に熱心に入れ込んでいた両親によって十分に愛されることなく育ち、自身もまた、強い愛着障害を抱えて、不毛な異性関係を繰り返しながら、成長していたのです。その結果、自己愛性パーソナリティ障害を呈したのでした。

連鎖する愛着障害の流れを止めるにはどうすればよいのか

このような場合、もし、この母親に対して、愛着障害に関する知識を伝えて心理療法を行えるカウンセラーが関われば、しだいに、自己愛性パーソナリティスタイルを緩和できる可能性があります。他者を愛し許せる心を育てようとすれば、まず、自分が抱える愛着障害を癒す必要があるのです。娘もまた愛着障害を抱える一人の人間であり、自分と同じ苦しみと戦っているのだと悟れば、娘を許し、愛し、支えられる母親になることでしょう。その時、初めて、連鎖していた愛着障害の流れが食い止められ、家族の再生の道が開けます。そうなれば、この母親にとっての孫は、救われるでしょう。このままではこの孫にも愛着障害が連鎖する可能性もあるのです。世の中にしばしばいわれる毒親の中には自己愛性パーソナリティ障害のケースが非常に多いのです。

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