反社会性パーソナリティ障害、サイコパス

反社会性パーソナリティ障害のことをサイコパスともいいますが、ロシアによるウクライナ侵略の戦争が起きてから、ロシアの大統領の言動についてさまざまな分析が精神病理学の分野からもなされるようになりました。大統領の人格の構造を分析した諸説の中では、彼はナルシストであるとの見方があります。それは上半身裸の写真を公表したり、自分のカレンダーを販売しているなど、芸能人のような行動をしているところからの分析だということです。また、もう一つ、よく言われるのが、ゲミュートローゼではないかという指摘です。ゲミュートローゼというのは、反社会性パーソナリティ障害を診断する要素の中にも重なるものがありますが、意味は、良心や思いやりが欠如しているということです。良心、罪悪感、道徳心、羞恥心などの高等感情と呼ばれるものが欠如しているのが、ゲミュートローゼです。もともとはドイツ人の精神科医であるクルト・シュナイダー博士が、ゲミュートローゼという言葉を最初に使いました。

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大統領はゲミュートローゼかマニュピレーターか?

大統領はゲミュートローゼであると主張する人々の論拠として、2014年のクリミア併合を一切の罪悪感なくやってのけたことをあげているようです。また、もう一つ、マニュピレーターであると分析する人もいます。マニュピレーターとは、他人を自分の思い通りに支配し、コントロールし、束縛するような価値観や行動様式を持つ人を意味する言葉です。自分の言うことを聞かせるためには暴力や謀略を駆使して周囲を従えようとするのが、マニュピレーターの特徴です。これも、反社会性パーソナリティ障害の特徴の一つに含まれる性質です。マニュピレーターであると分析する人々は、大統領が情報統制によって国民を誘導して巧妙に支配しようとしているところを根拠にしているようです。国内で支持率が上昇しているのも、マニュピレーターとして優れた手腕を持っているためであるとしています。

脱抑制やパラノイアを疑う分析結果も

このようにゲミュートローゼあるいはマニュピレーターといった分析はしばしばみられますが、このほか、ピック病などの前頭側頭型認知症の初期状態になっているのではないかとする分析もあります。つまり、ピック病では、脱抑制に陥るケースがありますが、感情や衝動を制御する前頭葉が萎縮して、セルフコントロールが効かなくなって、合理的な判断ができなくなっているのではないかとする見方です。ピック病は64才以下の初老期に発症することも多いので、その可能性はゼロではないのかもしれません。また別の見方では、彼はパラノイアなのではないかという分析もあります。パラノイアとは、被害妄想とか誇大妄想にとりつかれたようになり、異常な行動に走るものです。ソ連のリーダーであるスターリンが、パラノイアと診断された記録もあります。スターリンの場合、猜疑心の塊になり、疑心暗鬼に陥り、部下や側近の人々を次々にとらえて処刑したので、たしかにパラノイアかもしれませんが、ロシアの大統領においても、ウクライナがNATOに加盟してロシアに攻め込んでくることを怖れ、その恐怖から合理的ではない決断をして戦争を引き起こしたのだという見方です。

ロシアとウクライナの歴史を学べば本質が見えてくる

政治家や国家指導者までなるような人物の中に、反社会性パーソナリティ障害の要素を持つ人がかなりの割合で含まれていることは、精神病理学の分野ではなかば常識です。サイコパスともいいますが、明確に犯罪者になるばかりがサイコパスではないということです。良心の欠如(ゲミュートローゼ)やマニュピレーター、そしてパラノイア的な要素は、サイコパスなら持っているといえますが、その要素のバランス次第では、政治家として成功したり、国家指導者まで上りつめたりすることは、ありえることなのです。そういった分析も間違っていないのかもしれません。しかしながら、それは、戦争状態を引き起こしたという時点から現在までの状態を観察しての見解であり、長い歴史を俯瞰して、ロシアとウクライナの問題を分析したものではありません。2014年にクリミア併合をしたそもそもの理由は、当時のウクライナにおいて、クーデターのような政変が起きて、ロシア系住民の迫害が始まったことがその最大の理由であることもわかっています。その時点から、実際には、ロシアと、ウクライナに浸透して利権をむさぼる西側の富豪たちとのあいだに、一種の戦争状態が継続していたのだということがわかります。現在のテレビや新聞の論調は、悪のロシアと善のウクライナの戦いで、ロシアはとにかく悪いという立場がほとんどを占めています。たしかに戦乱を起こし、攻め込んでいることにおいて攻めた側に非があるといえますが、そもそも、ソ連崩壊の後のウクライナを利権の争奪戦の中で混乱に陥れ、その地で武器の実験や開発をしたり、紛争状態を続けさせてきたのは、西側諸国の富豪たちであることも明らかです。ロシアの大統領は、グローバリズムにふりまわされ、それと賢明に戦っているようにも見えるということです。しかし、ソ連は、日本が降伏した三日後に突如、不可侵条約を破棄して、攻め込んできました。そのときに満州や樺太や千島列島で日本人は虐殺され、たいへんな被害を受けています。その記憶がありますから、今のロシアのこともどうしても眉に唾をつけて見てしまうのは致し方ないことでしょう。一日も早く北方領土を日本に取り返したいものです。

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