周囲をコントロールする境界性パーソナリティ障害

感情の変動が激しくて周囲がそれに振り回されるというのが境界性パーソナリティ障害の特徴の一つです。気分の変動が激しいだけではなく、他者に対する態度も短期間で大きく変動します。それも別人のようにがらりと変わるので周囲の人は驚き困惑します。ちょっとしたことで異様なほどに落ち込んだりすることもしばしばです。その反対に、すぐに激情的に怒り、危険な行動に出るケースもあります。こうした変動の激しい人格に振り回されるうちに、家族や身内などの周囲の人は、しだいに腫物に触るように、顔色をうかがいながら、接触するようになっていくのです。

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本人の顔色を周囲がうかがうようになる

境界性パーソナリティ障害の人が激情にかられると、リストカットをしたり、薬物のオーバードーズなどをして騒ぎを起こします。ベランダなどから飛び降りようとしたり、自傷行為などをして、周囲を困惑させます。そうした行いを繰り返すうちに、周囲の人は心理的にコントロールされていきます。この状態は境界性パーソナリティ障害の人にとって、一時的には良いかもしれませんが、このような状態が永続することはありえず、周囲の人々はやがて、愛想をつかして離れていくことになります。よほどの献身的な家族であっても、いつまでもこのような理不尽な状態に耐えられることはありません。こうして周りの人間に見放され、友人を失い、家族も離れていき、孤独になっていくことになります。

境界性パーソナリティ障害の人は増えている

いつも機嫌をとってくれる身内でも、疲れがたまり、心の余裕がないときには、境界性パーソナリティ障害の人の期待どおりの態度をしてくれないこともあります。もし、そんなことがあれば、境界性パーソナリティ障害の人は激しく怒りだし、相手をとことん責めるのです。「今までのやさしさは見せかけだったんだ」「裏切られた」といった表現で、相手を責め立てます。そして、自傷行為に走ったり、とにかく相手を困らせることを繰り返すのです。まわりの人間はその豹変ぶりを見て驚き、怖れて、結局、境界性パーソナリティ障害の人の思い通りになってしまうことになるのです。境界性パーソナリティ障害の人は中高生にも増えていますし、大人にも増えています。中高生の場合は、家出をしたり、リストカットしたり、さまざまな非行を重ねて周囲をコントロールしようとします。

親に「責任をとれ」と迫る境界性パーソナリティ障害

引きこもりなどでしばしばみられるのが、親を責め立てて、思い通りにコントロールしようとするケースです。自分の人生がうまくいかないことをすべて親のせいにし、親が悪いと責め立てて、家の中で暴れたりします。その暴力や暴言を怖れて、親は、子供の言いなりになります。親から金を奪い、親に金を出させてマンションに自分一人で住んで好き放題に生活するケースさえあります。こうした苦しみに耐えかねて、子を殺してしまう親もいます。テレビでもそうした事件がしばしば報道されているとおりです。周囲は本人の機嫌を損ねないようにビクビクしながら接しますが、夜中に親をたたき起こして、過去のことを繰り返し責め立てたり、周囲の人が精神的に疲労困憊する様子を見て、したり顔をします。こうした傾向の背景にあるのが「見捨てられ不安」です。見捨てられることを極端に恐れるあまり、それを避けようとして、逆ギレして攻撃的になったり、危険な行動に出たりすることを繰り返すのです。また「二分法的認知(二分思考)」が強くみられ、物事を白か黒か、全か無かといった二分割思考で判断する傾向が強く現れます。これが、味方だと思った人がわずかの出来事で敵に変わり、人間関係のトラブルを続発させていく大きな要因になっています。

怒りの感情にブレーキが利かない

境界性パーソナリティ障害の人は、自分が何者であるのか、何のために生まれてきて、何をして死んでいくのか。というような自己のアイデンティティが欠落していることが多いです。反対に、アイデンティティが確立されていないからこそ、境界性パーソナリティ障害となっているともいえます。自分が何者かわからないこと、自分が何のために生きているのかを自分で規定できないことが、心の中に空虚感をたえずもたらすので、いっそう破滅的な生き方にのめりこんでしまうことになります。スリルや刺激を求める行動にはまったり、衝動的な行動が多いのも、その背景には自己の存在価値をなんとか確かめたいという深層心理が働いているといえるのです。アイデンティティが確立できていないことと関係があると思われるのが、感情のコントロールができないことです。特に怒りの感情のコントロールがまったくできません。思い通りにならないとすぐに怒りだします。罵詈雑言を他人にぶつけたり、激しい言葉で相手を傷つけるような暴言を平然と繰り返します。自分自身はとても繊細で傷つきやすいのにかかわらず、他者に対しては平気で傷つける言動を繰り返すのも境界性パーソナリティ障害の特徴なのです。

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